口腔の健康は、全身の健康やADL(日常活動能力)、そして何よりQOLに大きく影響することがさまざまな研究によって明らかにされています。
下記の図は、さまざまな研究によって得られた疫学調査をもとに口腔の健康状態が全身へ及ぼす影響を仮説も含め、わかりやすく示していますのでここに紹介します。
不良な生活習慣からう蝕や歯周病が発症し、それによってもたらされる多大な影響を予防するために歯科医療従事者としてどのように介入したらよいのでしょうか。
2005 年は歯科疾患実態調査や患者調査、国勢調査などさまざまな国政レベルの調査の実施年でした。
それらの結果から日本の現状を考えてみましょう。
上のグラフは、1999年と2005年の歯科疾患実態調査の永久歯の処置歯、未処置歯を含むう蝕有病者率、出血などの歯肉炎症状態から重度歯周炎にいたるまでを含めた歯肉に所見のある者の比率、そして1人平均残存歯数の結果を比較したものです。
注目されるのは、若年齢層のう蝕の極端な減少と全体的な歯周疾患の兆候のある者の増加です。
最新の情報では、炎症や出血程度の歯肉炎でも、慢性化すると歯周組織内の結合組織がみえないところで炎症により破壊され、いったん治癒したようにみえても、歯周組織内では歯肉繊維が破壊され脆弱化しているため、その後の歯周炎発症・進行のリスクが高いことが示唆されています。歯肉炎を起こさないためのケア、また歯肉炎を慢性化させないためのケアが今後重要になってくるでしょう。
また、このデータは処置歯も含めたう蝕有病者率ですので、20代後半以降のう蝕有病者率は非常に高く、特に35歳〜45歳の層では前回数値を少々上回り、100%という驚くべき数値になっています。これらは、『う蝕は治らない、う蝕になったらすぐ削ってつめる』ということが常識だった時代の名残ともいえるかもしれません。
なお、高齢者層でう蝕や歯肉所見のあるものの率が増えていますが、これは高齢者の残存歯率が高くなったための結果ともいえるので、一概に悪くとらえる必要はないでしょう。
右のグラフは、2005年の患者調査報告より作成した歯科の外来受療率です。若年齢層では、傷病別の受療率としてはう蝕が圧倒的に多くなっているのが顕著にわかりますが、歯科疾患実態調査(P16のグラフ)ではう蝕そのものは大幅に減少しています。これは、若年層の歯周疾患への知識の乏しさによる受療率の低さを物語っているのかもしれません。
また、歯科疾患実態調査でう蝕有病者率100%であった35〜45歳を境に歯周疾患での受療率が増加し、う蝕は平行線をたどります。う蝕が高年齢になっても減少しない理由には、2次う蝕や根面う蝕など、若年層とは異なった病因でのう蝕も増えてくることが考えられます。
70歳前後を境に全体的に受療率が低下していますが全人口の約1割が75歳以上という日本においては、高齢者または介護者への歯科の重要性がまだ浸透していない現状を示唆していると考えることができます。
2005年は「健康日本21』の中間評価の年でもありました。
『健康日本21』では、歯の健康は生活の質(QOL)を確保するための基礎となる重要な要素であるとし、生涯にわたり自分の歯を20本以上保つことにより健全な咀嚼能力を維持し、健やかで楽しい生活を送ろうという8020運動を推進しています。その実現のために『歯の喪失防止』とその原因となる『う蝕および歯周疾患の予防』について2010年までのさまざまな目標が設定され、2005年時点での中間評価、そして2006年には中間評価報告書案が提出されました。
その内容によると、他分野に比べいずれの項目も目標値に順調に近づいており、このまま推移すれば、目標年度には全国平均で目標値に到達するだろうと考えられています。
しかしながら、既に達成してしまった目標値設定の甘さや地域による格差、目標そのものがう蝕と歯周疾患のみに限定されていることなど、さまざまな角度から問題提起や意見が寄せられています。
2000年策定時 ベースライン値 |
2005年 中間実績値 |
2010年 目標値 |
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80歳における20歯以上 自分の歯を有する者の割合 |
11.5% | 25.0% | 20%以上 |
60歳における24歯以上 自分の歯を有する者の割合 |
44.1% | 60.2% | 50%以上 |
3歳児におけるう歯のない者の割合 | 59.5% | 68.7% | 80%以上 |
12歳児におけるDMFT | 2.9歯 | 1.9歯 | 1歯以下 |
40歳における進行した歯周炎 に罹患している者の割合 |
32.0% | 26.6% | ベースライン値から 30%減少(22%以下) |
50歳における進行した歯周炎 に罹患している者の割合 |
46.9% | 42.2% | ベースライン値から 30%減少(33%以下) |